労務・税務 実務コラム
人手不足を背景に外国人を雇用する企業が業種を問わず増えています。ところが、いざ採用してみると「社会保険にどう加入させればよいのか」「母国でも保険料を払っているが二重ではないのか」「退職して帰国するが、納めた年金はどうなるのか」といった疑問が次々と生じます。本コラムでは、社会保険労務士と税理士、それぞれの実務の現場から、外国人雇用にまつわる社会保険の注意点を、社会保障協定の観点も交えて整理します。
01大原則 ── 国籍は問わない
最初に確認すべき大原則は、日本の社会保険制度は国籍を問わないという点です。健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険のいずれも、適用の判断基準は「国籍」ではなく「就労実態」です。適用事業所で働き、加入要件を満たすのであれば、外国人であっても日本人と同様に被保険者となります。
「短期間で帰国する予定だから加入させなくてよい」「本人が加入を希望しないから外す」といった対応は、いずれも誤りです。加入要件を満たすかどうかは本人の希望や在留期間の長短で決まるものではなく、客観的な就労条件で判断されます。
現場で最も多い誤解が、この「国籍で判断する」というものです。週の所定労働時間や月額賃金などの加入要件は日本人とまったく同じに当てはめます。在留資格の種類によって加入の可否が変わるわけでもありません。技能実習生も特定技能外国人も、要件を満たせば当然に被保険者です。本人へ説明する際は、母国語での加入案内や、給与から控除される保険料の意味を丁寧に伝えることがトラブル防止につながります。
024つの保険それぞれの留意点
健康保険・厚生年金保険
法人事業所、または常時5人以上を雇用する一定の個人事業所は強制適用事業所です。フルタイムで働く外国人は原則として被保険者となります。短時間労働者についても、いわゆる「106万円の壁」に関わる適用拡大の要件を満たせば加入対象です。被扶養者となる家族が海外に居住している場合、令和2年4月以降は原則として国内居住要件が課されており、扶養認定の取扱いに注意が必要です。
雇用保険
週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合は被保険者となります。外国人を雇用したとき・離職したときには、雇用保険の被保険者資格届にあわせて在留資格・在留期間・国籍などを届け出る必要があります。
「雇用保険に入らないのだから手続きは不要」というのは誤りです。届出を怠ったり虚偽の届出をしたりした場合は、30万円以下の過料の対象となり得ます。届出漏れは外国人雇用で最も起こりやすいミスのひとつであり、入社・退職のたびに必ず確認する運用を徹底してください。
労災保険
労災保険は適用事業所で働くすべての労働者に適用され、不法就労であっても被災すれば給付の対象になり得る点が特徴です。雇用形態や在留資格にかかわらず、労働者を一人でも雇えば成立します。建設・製造現場などでは外国人労働者の労災が一定数発生しており、安全衛生教育の言語対応も実務上の重要課題です。
| 保険 | 主な加入要件 | 外国人雇用での特記事項 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 適用事業所のフルタイム等 | 海外居住家族の扶養認定に国内居住要件 |
| 厚生年金 | 同上 | 協定・脱退一時金が論点になりやすい |
| 雇用保険 | 週20時間以上・31日以上見込み | 資格届に在留資格等を記載して届出 |
| 労災保険 | 労働者を雇えば全員 | 在留資格を問わず適用される |
在留資格別にみる実務上の注意
在留資格そのものが社会保険の加入可否を左右することはありませんが、資格の性質によって実務上気をつける点が変わります。技能実習生は受入企業と雇用関係にあり、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険すべての対象です。途中で帰国するケースが多いため、後述の脱退一時金や母国語での説明が重要になります。特定技能外国人も同様に各保険の対象で、登録支援機関や受入企業に社会保険加入の確認義務が課されています。一方、留学生のアルバイト(資格外活動許可に基づく就労)は週28時間以内という上限があり、雇用保険・社会保険の加入要件を満たさない働き方が大半ですが、要件を満たせば当然に加入対象となります。在留資格を「加入しなくてよい理由」として用いることはできません。なお、仮にどの社会保険にも加入しない働き方であっても、前述の「外国人雇用状況届出」だけは必ず必要です。「保険には入らないから何の手続きもいらない」という思い込みが、届出漏れによる過料を招く典型的なパターンですので、改めて注意してください。
03社会保障協定 ── 二重加入と保険料の二重負担を防ぐ
外国人雇用、とりわけ海外の企業から日本へ派遣されてくる従業員(あるいは日本から海外へ赴任する従業員)で必ず論点になるのが社会保障協定です。協定は、国境をまたいで働く人が抱える二つの問題を解決するために、相手国と日本との間で結ばれています。
協定が解決する2つの問題
- 保険料の二重負担の防止 ── 日本と母国の両方で社会保険料を払う事態を避ける
- 年金加入期間の通算 ── 両国の加入期間を足し合わせ、年金受給資格につなげる
たとえば協定相手国の企業から日本へ5年以内の見込みで一時的に派遣されてくる従業員は、母国の社会保障制度に加入し続け、日本の厚生年金等の加入を免除されるのが原則です(派遣元国の「適用証明書」が必要)。逆に派遣期間が当初から5年を超える見込みであれば、就労地である日本の制度に加入するのが原則です。
協定の内容は国ごとに異なる
社会保障協定は相手国ごとに対象範囲が異なります。年金だけを対象とする協定もあれば、医療保険(健康保険)まで含む協定もあります。また、加入期間を相互に通算できる「期間通算」の規定がある国とない国があります。協定の有無・内容によって免除できる保険の範囲が変わるため、対象者ごとに相手国と協定内容を確認することが欠かせません。
協定の実務では「適用証明書の取得・更新を誰がいつ行うか」で混乱しがちです。証明書は当初の派遣見込み期間に対して発行されるため、当初5年以内の予定が延長された場合は、相手国実施機関と日本年金機構の双方への手続き(期間延長の申請)が必要になります。延長が認められず、途中から日本の制度へ加入し直すケースもあります。派遣の見込み期間と更新タイミングは、受入時点で必ず台帳化しておくことをおすすめします。
04脱退一時金 ── 帰国する外国人の年金
「短期間だけ働いて帰国するのに厚生年金を払うのは損ではないか」という相談は非常に多く寄せられます。これに応えるのが脱退一時金の制度です。国民年金・厚生年金の被保険者であった外国人が、年金を受け取らずに帰国する場合、一定の要件を満たせば、出国後に脱退一時金を請求できます。
- 日本国籍を有しないこと
- 保険料納付済期間等が一定月数以上あること
- 年金(老齢年金の受給資格期間を満たすなど)を受ける権利がないこと
- 原則として日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求すること
支給額は被保険者であった期間と保険料額に応じて段階的に定められ、上限となる月数が設けられています。社会保障協定で年金加入期間を通算できる国の出身者は、将来母国で年金を受給できる可能性があるため、脱退一時金を請求するか・通算を選ぶかで有利不利が変わります。安易な請求が将来の受給権を失わせることもあり、本人への情報提供が重要です。
05税務の視点 ── 居住者・非居住者と脱退一時金課税
社会保険と切り離せないのが税務の取扱いです。とりわけ外国人については、所得税法上の居住者・非居住者の区分によって課税関係が大きく変わります。
給与計算の現場で見落とされやすいのが、脱退一時金に対する課税です。脱退一時金は税務上「退職所得」として扱われ、非居住者へ支払われる際には原則として20.42%の源泉徴収が行われます。ところが、出国前に「納税管理人」を選任して退職所得の選択課税(確定申告)を行えば、源泉徴収された税額の多くが還付されるケースが少なくありません。帰国してしまうと手続きが煩雑になるため、出国前の段階で本人へ案内できるかどうかが分かれ目になります。
あわせて、社会保険料の本人負担分は社会保険料控除の対象となり、年末調整・確定申告に反映されます。協定により母国の制度へ加入している従業員の場合、日本では社会保険料控除の対象とならない一方、給与課税の取扱いに別途配慮が要る場面もあり、労務と税務の連携が欠かせません。
給与計算・年末調整での実務
外国人従業員であっても、居住者であれば年末調整の対象となり、扶養控除や社会保険料控除を反映します。ここで論点になりやすいのが海外に居住する親族の扶養控除です。国外居住親族を扶養親族として控除を受けるには、親族関係書類・送金関係書類などの提出・提示が要件とされます。とりわけ令和5年分以降、30歳以上70歳未満の国外居住親族については要件が厳格化され、原則として扶養控除の対象外とされたうえで、対象とするには「留学ビザ等の書類により留学していることが確認できる者」「障害者」「その年に38万円以上の送金等を受けている者」のいずれかに該当することを、書類で証明しなければならなくなりました。
なお、社会保険の扶養認定(原則として国内居住要件)と税務上の扶養控除(国外居住親族の書類要件)は別の制度・別の基準です。社会保険では国内居住が原則とされ、税務では国外居住親族について上記の書類が問われます。両者を取り違えると、扶養に入れられると思っていたのに入れられない(あるいはその逆)といった食い違いが生じるため、労務と税務の両面から確認することが欠かせません。
租税条約との関係
社会保障協定と混同されがちですが、租税条約は別の枠組みです。社会保障協定が保険料の二重負担を調整するのに対し、租税条約は所得税など「税」の二重課税を調整します。短期滞在者免税(いわゆる183日ルール)や、留学生・事業修習者に対する免税条項などは租税条約に基づくものであり、外国人従業員の課税関係を判断するうえで、協定と条約の双方を確認する必要があります。
短期滞在者免税(183日ルール)は「日数だけ」で判断してはいけません。この免税が適用されるには、滞在日数が一定期間内に183日以下であることに加えて、通常は「報酬を支払う雇用者が役務提供地(日本)の居住者でないこと」「報酬がその雇用者の日本国内の支店・恒久的施設(PE)によって負担されていないこと」という実態要件をすべて満たす必要があります(要件は条約ごとに異なります)。
たとえば「滞在は150日だから免税」と早合点しても、報酬を実質的に日本法人が負担している場合には免税が認められず、課税漏れとして後から源泉徴収義務を問われるおそれがあります。日数のカウントだけでなく、「誰が報酬を負担しているか」という実態まで確認することが、専門家としてのリスク回避の要点です。
外国人雇用は、その両輪が噛み合って初めて適正な処理になる。
06受入時に整えておきたい実務チェック
外部の専門家に相談する前提としても、社内で次の点を整理しておくと手続きが格段にスムーズになります。
- 在留資格・在留期間・資格外活動許可の有無を確認し、写しを保管したか
- 就労条件(週所定労働時間・月額賃金・雇用見込み期間)を確定したか
- 本国からの派遣か、現地採用かで協定適用の要否を切り分けたか
- 協定対象者について適用証明書の取得・更新フローを定めたか
- 社会保険・雇用保険に加入しない人も含め、入社・退職のたびに「外国人雇用状況届出」を提出する運用にしているか
- 国外居住親族の扶養控除について、留学ビザ写し・送金証明等を秋口までに案内・準備する体制があるか
- 帰国予定者へ脱退一時金と納税管理人について案内する体制があるか
07おわりに
外国人雇用における社会保険は、「国籍を問わず加入させる」という原則さえ押さえれば、骨格は日本人と変わりません。難しさが生じるのは、国境をまたぐ局面── すなわち社会保障協定による加入調整、帰国時の脱退一時金、そしてそれに伴う課税です。これらは社会保険労務士の労務手続きと、税理士の税務判断が交差する領域であり、どちらか一方の視点だけでは適正な処理にたどり着けません。
近年は外国人材の受入れ拡大に伴い、社会保険・税務いずれの分野でも届出義務や確認義務が強化される傾向にあります。届出漏れや誤った加入処理は、過料や追徴のリスクにとどまらず、外国人本人との信頼関係を損なう原因にもなります。逆に、加入のしくみや脱退一時金・還付手続きを丁寧に説明できる企業は、外国人材から「安心して働ける職場」として選ばれます。社会保険の適正な手続きは、コンプライアンスであると同時に、人材確保のための投資でもあるという視点を持ちたいところです。
制度は相手国や在留資格、改正の動向によって細部が変わります。実際の受入れにあたっては、対象者ごとの事情を踏まえ、早い段階で社会保険労務士・税理士に相談されることをおすすめします。労務と税務、二つの専門の視点を早期に重ね合わせることが、外国人雇用を円滑に進める何よりの近道です。
