医療法人の出資持分、いくらと評価される?

純資産等で決まる評価額、放置のリスク、そして「持分なし」への移行という選択肢まで。開業医が押さえるべき要点を図解で整理

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開業医・医療法人オーナー向け

知らないうちに膨らむ資産。
医療法人「出資持分」の評価と承継のリアル

毎年の利益の積み重ねが、いつの間にか相続税の重い負担に変わっている──。出資持分のある医療法人が必ず向き合う論点を、評価のしくみから対策の選択肢まで、できるだけ平易に整理します。

SECTION 01出資持分とは何か、なぜ問題になるのか

医療法人を設立する際、理事長や出資者は法人へ資金を拠出します。この拠出に応じて持つ権利が「出資持分」です。株式会社における株式に近い性格を持ち、退社時の払戻しや解散時の残余財産の分配を請求できる財産的権利を伴います。

ここで問題になるのが、医療法人は剰余金の配当が法律で禁止されている点です。配当ができないため、毎年の利益は社外に出ていかず、内部留保として法人内にひたすら積み上がっていきます。結果として、設立時はわずかな出資額だったものが、数十年後には数億円規模の評価額に膨らむことが珍しくありません。

ここが落とし穴

出資持分は現金として手元にあるわけではないのに、相続や贈与の場面では「財産」として課税対象になります。納税資金は別途用意しなければならず、対策をしないまま相続が発生すると、後継者が多額の納税に苦しむケースが生じます。

― 図1:医療法人の2つの類型 ―
医療法人
いま課題になりやすい

持分あり医療法人

主に2007年3月以前に設立。出資持分が財産権として存在し、相続・贈与で評価額に応じた課税が生じる。新規設立はできず、既存法人として残っている。

現行制度

持分なし医療法人

2007年4月以降の新設はこちら。出資持分という概念がなく、相続税の課税対象とならない。一方で拠出金の払戻しも受けられない。

2007年(平成19年)の医療法改正により、現在は「持分なし」しか新設できません。しかし、それ以前に設立された「持分あり医療法人」は経過措置型として今も数多く存在し、本コラムの主役はこちらです。先生の法人がいつ設立されたかで、論点が大きく変わります。

SECTION 02出資持分はどう評価されるのか

出資持分の相続税評価は、財産評価基本通達に基づき、取引相場のない株式(非上場株式)の評価方法に準じて行われます。評価方式は、その持分を相続・贈与で取得する人が法人の経営を支配する立場かどうかで分かれます。

― 図2:出資持分の評価方式 ―
方式 A類似業種
比準方式

同業種の上場法人と比べて評価

利益・純資産といった要素を業種の平均的な指標と比較して算定。医療法人は配当が禁止されており配当要素は実質的に働かないため、利益と純資産が評価を左右する。規模の大きい法人で用いられる。

方式 B純資産
価額方式

法人の財産を時価で洗い直して評価

資産を相続税評価額に置き換え、負債と含み益への法人税相当額を控除して算定。内部留保が厚いほど評価が高くなるのが特徴。

方式 C配当還元
方式

少数持分の人に使う簡便な方式

経営を支配しない少数出資者が取得する場合に適用。配当を基礎とする方式だが、医療法人は配当がないため評価額は最低水準にとどまることが多い。

後継者である親族が持分の大半を引き継ぐ「支配的な取得」の場合、原則として類似業種比準方式と純資産価額方式を法人の規模に応じて組み合わせて評価します。ここで押さえておきたいのが、医療法人は配当が禁止されているため、類似業種比準方式の3要素のうち配当要素は実質的に働かないという点です。評価は利益と純資産によって決まり、長年の内部留保により純資産の比重が効くため、多くの開業医の医療法人では評価額が高止まりしやすいのが実情です。

評価のイメージ

設立時の出資が1,000万円でも、30年の事業で内部留保が積み上がれば、純資産ベースの評価額が2億円・3億円に達することがあります。この差額がそのまま課税対象として後継者にのしかかります。

― 図3:出資額と評価額のギャップ(イメージ) ―
設立時の出資額1,000万円
出資
30年後の相続税評価額約2億円
内部留保の積み上がりで評価が膨張
※ あくまで概念図です。実際の評価額は法人の財務状況・規模・業種比準により大きく異なります。

SECTION 03放置するとどうなるか

対策をしないまま理事長に相続が発生すると、後継者は高い評価額の出資持分に対する相続税を、原則として現金で納めなければなりません。法人にお金があっても、配当禁止のため個人がそれを自由に引き出せるわけではない点が、この問題を一段と難しくしています。

さらに、複数の相続人がいる場合には出資持分が遺産分割の対象となり、後継者以外の相続人が持分の払戻しや代償金を求めることで、法人の資金繰りや経営の安定が脅かされることもあります。承継は税金だけでなく、家族間のバランスの問題でもあるのです。

SECTION 04取り得る対策の選択肢

対策は大きく「評価額そのものを下げる」「計画的に移転する」「持分そのものを手放す」の3方向に整理できます。それぞれにメリットと留意点があり、法人の状況や後継者の有無によって最適解は変わります。

方向性具体策ポイント・留意点
評価額を下げる 役員退職金の支給、含み損のある資産の整理、生命保険の活用など 退職金支給時は純資産が減り評価が下がる好機。タイミング設計が鍵。
計画的に移転する 暦年贈与・相続時精算課税による後継者への持分の生前贈与 評価が低い時期に少しずつ移すほど有利。長期の計画が前提。
持分を手放す 「持分なし医療法人」への移行 将来の相続課税リスクを根本から解消できる。認定医療法人の認定を受ければ、要件を満たす限り移行時の贈与税課税を回避できる。
納税資金を備える 生命保険、納税猶予の特例の検討 評価を下げきれない場合の最後の備え。資金準備は早いほどよい。

「持分なし医療法人」への移行という選択 ― 認定医療法人制度

近年、特に注目されているのが持分なし医療法人への移行です。出資者全員が持分を放棄して「持分なし」に切り替えることで、将来にわたって出資持分にかかる相続税・贈与税の問題を根本から断ち切ることができます。

この移行を後押しするのが、国が設けている認定医療法人制度です。一定の要件を満たして厚生労働大臣の認定を受けた「認定医療法人」が持分なしへ移行した場合、本来であれば持分を放棄したことで法人にかかり得る贈与税(みなし贈与課税)が、要件を満たす限り課されないという優遇が受けられます。これにより、税負担を抑えながら持分の問題を解消する道筋が用意されています。

認定を受けるには、運営に関する複数の要件(役員報酬の制限、親族の役員割合の制限、社会保険診療等の収入割合など)を満たし、移行計画について認定を受けたうえで、期限内に持分なしへ移行する必要があります。制度には適用期限が定められており、延長を重ねてきた経緯があるため、利用を検討する際は最新の期限・要件を必ず確認してください。

移行は万能ではない

持分を放棄すると、退社時の払戻しや解散時の残余財産を受け取る権利も失います。「相続対策になる」という一面だけで判断せず、ご自身やご家族にとって財産権を手放す意味を十分に理解したうえで選択することが重要です。要件・手続も複雑なため、必ず専門家と検討してください。

SECTION 05まず何から始めるか

出資持分の対策に共通する原則は、「早く、計画的に」です。評価額は法人の業績とともに毎年変動し、一般的には内部留保が積み上がるほど高くなっていきます。つまり、先送りするほど対策の難易度は上がります。退職金を支給して評価が下がるタイミングや、業績が一時的に落ち込んだ局面など、移転や移行に適した「窓」を逃さないためにも、現状把握を早めに行っておくことが何よりの備えになります。

このコラムの要点

  • 持分あり医療法人では、配当禁止により内部留保が積み上がり、出資持分の評価額が膨らみやすい。
  • 評価は非上場株式に準じ、配当要素は実質的に働かないため利益と純資産で決まり、純資産の比重で高くなりやすい。
  • 放置すると、後継者の納税負担や相続人間の分割トラブルにつながる。
  • 対策は「評価を下げる」「計画的に移転する」「持分なしへ移行する」「納税資金を備える」の組み合わせ。
  • 認定医療法人の認定を受ければ、税負担を抑えて持分なしへ移行し、課税問題を根本解消する道もある。
  • いずれの対策も、早期の現状把握と長期計画が成否を分ける。

※ 本コラムは医療法人の出資持分に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務・法務上の判断や対策を推奨・保証するものではありません。出資持分の評価方法や税制、認定制度の要件は法改正等により変更される場合があります。個別の状況に応じた具体的な対応については、税理士等の専門家にご相談ください。