税務 × デジタル コラム
三瀬国際税務会計事務所・三瀬社会保険労務士事務所 | 法人・個人事業主・開業医・医療法人の経営者・経理担当者向け
国税庁は令和7事務年度から、税務調査などの手続きにオンラインツールの利用を本格導入し、令和8年(2026年)にかけて全国へ段階展開します。あわせて基幹システムの刷新とAI・データ分析の活用が進み、税務調査は「紙と対面」から「データとオンライン」へと大きく姿を変えつつあります。本コラムでは、税理士・社会保険労務士のダブルライセンス事務所の視点から、制度のしくみと納税者が今から備えるべきことを図解で整理します。
📎 参照元(国税庁)
本コラムは、国税庁の下記ページをもとに作成しています。あわせてご確認ください。
国税庁「税務行政におけるオンラインツールの利用について」
この記事でわかること
- 税務調査で使われるオンラインツールの全体像
- オンライン調査を始めるまでの手続きの流れ
- 全国展開のスケジュールとGSS・KSK2という基盤の刷新
- AI・データ分析の活用で調査対象の選び方がどう変わるか
- 納税者・経理担当者が今から準備しておくべきこと
- 開業医・医療法人が特に注意したい医療機関特有の論点
1. 税務調査の「オンライン化」とは
税務調査のオンライン化とは、従来は税務署への来訪や紙・郵送・電話が中心だった調査手続きの一部を、インターネットを介したツールに置き換える取組みです。国税庁は、税務調査のほか行政指導・滞納整理・査察調査などの場面で、必要に応じて次の3つのツールを利用するとしています。
利用は税務署等の担当者と利用者双方の合意を前提とし、希望する場合のみ用いられます。同意しなければ従来どおり対面の調査が行われますし、逆に同意しても、最終的にオンラインにするか対面にするかは国税当局の判断によります。
図1|税務調査で使われる3つのオンラインツール
① インターネットメール
日程調整、準備資料の依頼・連絡、Teams・PrimeDriveのURL通知など、主に連絡・調整に使用。
② Web会議(Microsoft Teams)
質問検査や行政指導などのやり取りに使用。滞納整理・査察調査以外の場面が対象。
③ オンラインストレージ(PrimeDrive)
大容量の電子データ資料の提出に使用。GSSに連携された官製のPrimeDriveのみ利用可能。
※ Web会議システム(Microsoft Teams)は、滞納整理・査察調査以外で利用されます。(出典:国税庁「税務行政におけるオンラインツールの利用について」)
2. オンライン調査を始めるまでの手続き
オンラインツールの利用は、担当者から示される「オンラインツールの利用に関する同意事項」に同意し、連絡用メールアドレスなど所定の事項を登録することから始まります。なりすまし防止のため、登録後はテストメールの送受信と、電話または対面による受信確認を経て正式に承認される流れです。立会いを行う税理士等についても、それぞれ個別に同意手続きとメールアドレス登録が必要とされています。
図2|オンライン調査を始めるまでの4ステップ
⚠ 偽メールにご注意ください
オンライン化に便乗し、国税庁をかたる不審なメールや電話が想定されます。利用は必ず正規の意思確認の手続きを経てから開始されます。心当たりのないメールのURLや添付ファイルは開かず、担当税理士や税務署に確認しましょう。
3. 全国展開のスケジュールと基盤の刷新
オンライン化の土台となるのが、デジタル庁が提供する政府共通の業務実施環境GSS(ガバメントソリューションサービス)です。令和7年9月から一部の国税局で先行導入され、その後、全国の国税局・税務署へ順次拡大していきます。
図3|GSS導入と全国展開のスケジュール(イメージ)
※ 導入時期は国税庁の公表情報にもとづくイメージです。地域や状況により前後する場合があります。
国税庁の情報システムの中核であるKSK(国税総合管理)システムは、令和8年9月から次世代の「KSK2」へ全面移行する計画とされています。これにより、少子高齢化で調査官の人員が限られるなかでも、税務調査の効率化と人員の適正配置が可能になると見込まれています。オンライン化は単なる「非対面化」にとどまらず、税務行政のデジタル基盤そのものを刷新する取組みなのです。
4.【本題】AI・データ分析の活用で調査はどう変わるか
オンライン化と基盤刷新がもたらす最大の変化は、AIによる網羅的・高速なデータ分析が可能になる点です。従来は調査官の経験や現場判断に頼っていた調査対象の選定が、電子帳簿やe-Taxデータなどを活用した「データドリブン型」へと移行していくと予想されています。
図4|「現場判断型」から「データドリブン型」へ
これまで(現場判断型)
- 紙資料と申告書が中心
- 調査官の経験・勘で対象を選定
- 対面・郵送・電話でのやり取り
- 確認できる範囲・件数に限界
これから(データドリブン型)
- 電子帳簿・e-Taxデータを活用
- AIがリスクを分析し対象を抽出
- オンラインでのやり取りが可能に
- 細部まで網羅的にチェック
将来的には、調査先の選定をAIを中心とした判断で行い、抽出された問題点をもとに調査官が実地調査を実施するという流れが想定されています。調査先の選定基準そのものが大きく変わるわけではありませんが、AIが細かな部分までチェックするようになるため、これまで見過ごされていた小さな不整合が調査の引き金になる可能性が高まります。日常的な経費処理や仕訳の精度が、そのまま税務リスク管理に直結する時代に入りつつあると言えます。
実務メモ|AI活用と情報漏えい対策
税務調査でのAI活用は現在も試験的に進められており、個人情報の外部漏えいリスクへの対策が課題として検討されている段階です。納税者側でも、AIを使った経理・申告の効率化は有効ですが、機密情報を扱わせない安全なツール選択と、生成AIの誤り(ハルシネーション)を前提とした目視確認を欠かさないことが重要です。
5. 納税者・経理担当者が今から備えること
調査がデータドリブン型へ移行すると、納税者側にもこれまで以上に、取引の証憑・根拠資料を体系的に整理・保存しておくことが求められます。「あとで探す」では通用しにくくなり、日々の記帳の正確さそのものが最大の備えになります。
図5|これからの税務調査への備え・4つの視点
① 電子帳簿・データの整備
電子帳簿保存法に沿った保存と、いつでも提出できるデータ管理の体制づくり。
② 証憑の紐づけ・整理
取引と請求書・領収書等の対応関係を明確にし、根拠をすぐ示せる状態に。
③ 経費処理の社内ルール徹底
従業員の日常的な経費処理について、教育・指導でミスを未然に防ぐ。
④ オンライン対応の準備
Teams・PrimeDriveの操作確認、画面共有用と提出用の資料の切り分け。
※ オンライン調査では、画面共有は納税者側の説明補助が想定されているため、共有して説明する資料と、PrimeDrive・書面で提出する資料を事前に切り分けておくと実務がスムーズです。
6.【開業医・医療法人向け】医療機関特有の注意点
クリニックや医療法人は、保険診療(社会保険診療報酬)と自由診療が混在し、窓口現金・自費物販・院内処方など現金や在庫の動きが多いという特徴があります。データドリブン型の調査では、こうした医療機関特有の収入・経費が、外部データと突き合わせて細部までチェックされやすくなると考えられます。開業医・医療法人が特に意識しておきたい点を整理します。
図6|医療機関でAI・データ分析が着目しやすいポイント
① 保険診療と自由診療の区分
社会保険診療報酬は支払基金・国保連のデータで把握されやすく、申告額との整合が確認されやすい領域。保険診療・自由診療それぞれを正しく区分計上できているかが問われます。
② 自費収入・物販の計上漏れ
自由診療、健診、ワクチン、サプリ・化粧品等の物販、文書料などの窓口現金収入。レジ・予約システムのデータと帳簿の一致が重要です。
③ 概算経費特例(措置法26条)
社会保険診療報酬5,000万円以下等の要件を満たす場合の特例。要件充足の判定と、実額経費との有利選択の根拠を説明できる状態に。
④ 院長・理事長個人との区分
交際費・車両・自宅兼用経費など、事業と家事・個人の区分。医療法人では役員給与・役員退職金・MS法人との取引価格も着目されやすい点です。
※ 上記は一般的な着眼点の例示であり、実際の調査で確認される事項は個々の状況によります。
オンライン調査に対応する場合、医療機関ではレセプトや患者情報など機微な個人情報(要配慮個人情報)を扱う点に特に注意が必要です。PrimeDriveで提出するデータやTeamsの画面共有に、提出目的を超える患者の個人情報が含まれないよう、事前に資料を切り分け・マスキングしておく運用が望まれます。あわせて、電子カルテ・レセコン・予約/レジシステムから出力される売上データと会計帳簿を日頃から突合しておくことが、調査対応の負担軽減とリスク低減の両面で有効です。
医療機関の実務メモ
「保険診療=データで把握されている」を前提に、①自費・物販を含む収入の計上漏れをなくす、②概算経費特例を使う場合は要件と選択の根拠を残す、③個人と法人(またはMS法人)の取引・経費区分を明確にする――この3点を整えておくと、データドリブン型の調査でも慌てずに対応できます。
7. よくあるご質問
Q. オンライン調査は強制ですか?
いいえ。納税者の同意が前提です。同意しない場合は従来どおり対面の調査が行われます。一方で、同意してもオンラインにするか対面にするかは最終的に国税当局の判断によります。
Q. Teamsやストレージは自由に選べますか?
原則として、Web会議は国税庁が指定するMicrosoft Teams、資料提出はGSSに連携された官製のPrimeDriveに限られます。個人で使う他の会議ツールやクラウドは想定されていません。
Q. 申告書や届出書もオンラインツールで出すのですか?
いいえ。申告書・各種届出書・申請書などは従来どおり書面またはe-Taxで提出します。今回のオンラインツールは、あくまで調査等の場面での連絡・面談・資料のやり取りに使われるものです。
Q. AIに選ばれると必ず調査されるのですか?
AIはあくまでリスクの高い先を抽出する役割で、最終的な実地調査は調査官が実施します。とはいえ細部まで分析されるため、日頃から正確な記帳と証憑管理を徹底しておくことが最善の対策です。
Q. クリニックでオンライン調査に応じる場合、患者情報はどう扱えばよいですか?
レセプトやカルテには要配慮個人情報が含まれます。提出目的に必要な範囲に限り、患者を特定できる情報はマスキングするなど、事前に資料を切り分けておくことが大切です。扱いに迷う場合は担当税理士にご相談ください。
「オンライン調査にどう備える?」「AI時代の記帳・証憑管理を整えたい」
三瀬国際税務会計事務所・三瀬社会保険労務士事務所は、税務と労務のダブルライセンスで、電子帳簿・証憑管理の整備からオンライン調査への対応、日常の経理体制づくりまでを一括でサポートします。開業医・医療法人については、保険診療・自由診療の区分、概算経費特例、MS法人との取引や個人・法人の経費区分など、医療機関特有の論点にも精通しています。税務調査は「起きてから」ではなく「起きる前」の準備が肝心です。まずはお気軽にご相談ください。
本コラムは、国税庁「税務行政におけるオンラインツールの利用について」および各種公表情報をもとに、令和8年(2026年)7月時点で作成しています。制度の運用・手続きの詳細やスケジュール、システムの稼働時期は、今後の公表・通達等により変更される場合があります。個別の判断にあたっては、必ず担当の税理士・社会保険労務士にご相談ください。本情報の利用により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考:国税庁「税務行政におけるオンラインツールの利用について」 https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/onlinetool/index.htm
